会長挨拶

資源地質学会会長あいさつ

霜鳥 洋
独立行政法人 エネルギー・金属鉱物資源機構

 ここ数年、重要鉱物(クリティカル・ミネラル)という言葉をよく聞くようになりました。先端技術の進歩により様々な金属の需要が急増すると各方面が予測しているからですが、ウクライナ情勢や米中関係を中心とした地政学的な緊張の高まりが日本のサプライチェーンの脆弱性を露わにし、重要鉱物の重要度をさらに上げています。鉱物資源の大部分を海外からの輸入に頼っている日本は、重要鉱物の確保が急務です。
 重要鉱物の確保において、我々資源地質を専門とする者は重要な役割を果たします。鉱床の探査・開発・生産において資源地質に関する学問と技術を専門とする研究者や技術者の存在は必要不可欠です。資源の権益確保や調達においても同様で、確保・調達の際に行う経済性評価では資源の評価が最も基本的な要素であり、資源地質を専門とする者による対応が必須です。このように、資源地質を専門とする者は、研究者であれ、技術者であれ、日本社会に必要な存在です。資源地質学会はそのような専門家の集まる学会です。人数的にはそれほど大きな学会ではありませんが、存在意義は大きいと言えます。最近本学会に加わった若い会員のために本会について少し説明します。
 資源地質学会の目的は何でしょうか。会則には「本会は、資源地質に関する学問および技術の進歩と発展に貢献し、会員相互の連絡を図ることを目的とする。」とあります。本学会の活動の大枠はここに規定されます。この一文を分解して解説すると以下のようになります。
 まず「資源」とは何を指すのでしょうか。資源という言葉の対象は広く、漁業資源や人材資源のように用いられる場合もありますが、本会の場合は主に鉱物資源のことです。鉱物資源は、現代文明に必須な材料である鉄や銅、先端技術に必要なレアアースやリチウムといったレアメタル等、私たちの日常生活になじみ深い金属の原料です。またコンクリート原料となる石灰石、製鉄や火力発電に用いられる石炭、さらには地熱発電に使われる熱水も対象となります。これら資源の生産に関連する環境地質も対象に含まれます。
 次に「学問および技術」についてですが、学問は大学や研究所で行われています。技術は企業や政府機関、研究所で行われています。学問と技術は、オバーラップする部分はあるものの、それぞれ固有の活動領域を持っています。近年の慣習として会長はそれぞれの領域から交互に選出されており、2023年度―2024年度の渡辺会長は学問側から、2025年度―2026年度として選出された霜鳥は技術側という位置づけですが、当然ながらふたつの領域の連携を図ることも本会の重要な役割です。
 次にでてくる「進歩と発展に貢献する」ですが、どのようにして貢献するのでしょうか。会則では3つの事業を行うと定めています。
 第一に「会誌その他の出版物の発行」があります。英文誌のResource Geologyは国際的な学術雑誌で、基本的に内外の会員の学術論文から構成されます。和文誌の資源地質は会員の学術論文に加え、資源情報や総説、学会記事からなる親ぼく誌的な性質もあわせ持ちます。英文誌・和文誌ともに、もっと多くの投稿がなされ、多くの読者をえられるよう図ってゆきます。
 第二に「年会・講演会・見学会・研究会の開催」があります。毎年6月に東京で開催される年会は、学生会員や海外の会員を含む多くの会員が講演やポスター発表をします。また年会の初日にはシンポジウムが開催されます。時機にあったテーマが毎年設定され、内外の学者・専門家による発表に多くの聴衆が集まります。社会的な関心を引くテーマの年は、会員のみならず、非会員の参加も多く、学会への新規入会のよい機会になっています。2025年の年会シンポジウムは「インドネシアの鉱物資源と製錬の概観」というテーマで内外から多くの発表がなされる計画です。
 第三に「研究の援助・奨励および研究業績ならびに技術成果の表彰」があります。研究の援助としては、大学院学生が海外の鉱床を調査する際に経費を支援する制度があります。研究業績と技術成果の表彰としては、その年の英文誌に発表された論文の中から選ぶThe Best Article Award、将来が期待される若手を対象とした研究奨励賞、技術の進歩への貢献や著しい探鉱成果を表彰する技術賞、一連の論文発表により優れた成果を上げた会員を表彰する加藤武夫賞があります。受賞者は年会で表彰され、表彰者講演をします。しかし近年は該当なしとなる場合が多く、なんらかの対応が必要と感じています。
 最後にある「会員相互の連絡」に関しては、ホームページへの充実や、連絡事項のeメイル通信、和文誌への掲載で行っています。年会の際に行われる懇親会は会員親ぼくのよい機会です。また若手会員の集まりである若手研究会への費用支援も行っています。
 資源地質学会は1951年に設立され、これまでに70年以上にわたり活動しています。これまで先輩方が歩んできた道を思いつつ、これから進むべき道を会員各位とともに模索してゆきたいと考えています。