会長挨拶

資源地質学会会長あいさつ

渡辺 寧

 2023年度から2年間,資源地質学会の会長を務めされていただくことになりました。私は工業技術院 地質調査所,独立行政法人 産業技術総合研究所,そして現在の秋田大学 国際資源学研究科と所属は変わりましたが,一貫して鉱物資源の調査・研究を行って参りました。これまでの経験を踏まえて,資源地質学会の発展に幾らかでも貢献すべく努力して参りたいと存じます。
 私が資源地質学会(鉱山地質学会)に入会した1985年当時は,まだいくらか国内に稼行している金属鉱山も残っており,金属鉱業事業団の探査プロジェクトも盛んに行われていました。鉱山の調査や探査プロジェクトに参加させていただき,諸先輩から指導いただいたことが,大変良い経験になっています。
しかしながら,その後の金属価格の低迷により,お金を出せば資源は苦労しなくても買える時代が到来しました。国内鉱山は次々と閉山,国内での探査事業もなくなり,大学では「資源」という名称のついた学部や学科は激減してしまいました。学会を支えていた資源系コンサルタント会社も資源探査から環境分野に大きくシフトすることを余儀なくされたと思います。資源地質学会も,このような時代の変化に対応して,学会の名称変更,環境分野へのシフト,英文誌の刊行などなどさまざまな取り組みを行って来ました。
ところが2000年以降,中国をはじめとする新興国での資源の消費が急増し,金属価格は一転上昇に転じ,その傾向は現在でも続いています。さらに気候変動問題が顕在化し,SDGs, カーボンニュートラル社会の実現のために,磁石材料,電池材料に代表される鉱物資源の需要が増大してきました。これまでのベースメタルに関する知識・経験だけではなく,様々なレアメタル資源の開発のための知見が求められるようになったのです。今後もこの傾向が継続することは確実です。今や中国が世界の半分以上の資源を生産し消費する時代になりましたが,G7会合でも議論されているように,今一度サプライチェーンを整備し,資源の安定供給の土台の上に,持続可能な社会の実現を目指していく必要があります。
 このような時代を迎えて,私たちは初心に帰り,資源の安定供給のための探査技術や評価技術,開発技術を磨いていかなければなりません。鉱物資源の形成は,地球史や環境変動,火成活動やテクトニクスとも密接に関連しており,鉱床学は,地球科学の諸問題の解明に貢献してきました。研究面においても地球科学の研究の上で重要な分野であり続けることは言うまでもありません。今後AI技術の普及が大きく社会を変えていくと予想されますが,資源分野もその例外ではありません。新しい技術を取り入れながら次世代を担う技術者,研究者を養成していかなければなりません。本学会に課せられた使命はますます重要になっていくものと思っています。
 資源地質学会は,会員の高齢化,会員数や雑誌への論文投稿数の減少と少し沈滞傾向にありますが,さまざまな活発な活動を通して,社会に貢献できるよう,学会執行部の方々と知恵を集約して頑張って前進したいと思います。会員の皆様におかれましては,どうかよろしくご理解とご協力をお願いする次第です。